「あ…やっちゃった」
小学校5年生の学芸会。
本番のセリフで吃音が出てしまったあの瞬間は、今でもはっきり覚えています。
当時、ことばの教室に通って練習を重ね、幸い日常会話ではほとんど吃音が出ないほど落ち着いていました。
それでも、クラス全員の前で言葉につかえたことが、本当に恥ずかしくて、自分が嫌になったんです。
でも――
今思い返すと、あの経験は「吃音があっても伝わるんだ」と気づけた大切なターニングポイントでした。
学芸会のエピソード
ここからは、小学5年生だった私が経験した実際の出来事をお話しします。
学芸会での挑戦と失敗
学芸会の配役を決めるとき、セリフのない役もあったけれど、私はあえてセリフのある役を選びました。
「やってみたい」――ただそれだけの思いで。
家で何度も練習を重ね、自分なりに気持ちを込めてセリフを覚えました。
本番直前までは順調。
劇の中でも、ほとんどのセリフはスムーズに話せていました。
けれど――
一番大事なセリフで、言葉がつかえてしまった。
劇が終わったあと、私はずっと落ち込んでいました。
「せっかく練習したのに……やっぱり自分はダメなんだ」
そんな気持ちでいっぱいだったんです。
でも、意外なことが起きました。
友達も先生も、誰ひとりとして吃音に触れる人はいなかったんです。
むしろ「緊張したよね」「あそこ、自分もちょっと間違えた」なんて、みんな普通に話しかけてくれました。
一番気にしていたのは、自分だった
数日後、クラスで学芸会のビデオを観る時間がありました。
正直、例のシーンが流れるのが怖かった。でも、クラスの誰も何も言わない。
「あれ? みんな、もう忘れてるの……?」
そのとき、ふと気づきました。
一番気にしていたのは、ほかでもない自分だったんです。
先生の言葉が、心に残った
ビデオ鑑賞のあと、担任の先生がそっと声をかけてくれました。
「セリフ、すごく気持ちがこもってたよ。いっぱい練習したの、わかるよ。」
吃音が出たかどうかじゃなく、**「気持ちが伝わったかどうか」**を見てくれていた。
それが何よりもうれしかったんです。
このとき初めて、私はこう思えました。
「吃音が出ても、人に伝えることはできるんだ」
ことばがつっかえても、人に伝わる
吃音があると、「うまく話せない=ダメなんじゃないか」と感じてしまうことがあります。
特に子どものころは、「失敗した」「恥ずかしい」という思いに支配されがちです。
でも、今の私ははっきり言えます。
- 吃音があっても、ちゃんと伝わる。
- 吃音があるからといって、できないことなんてない。
大切なのは「どう話したか」ではなく、「どんな気持ちで伝えようとしたか」。
がんばって練習した姿や、言葉に込めた思いは、ちゃんと届いているんです。
そして、あの学芸会の経験は、今でも私の心の支えになっています。
さいごに:もし、あなたが吃音で悩んでいるなら
「うまく話せなかったらどうしよう」
「また言葉がつかえたらイヤだな」
そんなふうに思う日も、きっとあると思います。私も、そうでした。
でも、大丈夫。
あなたが伝えたいと思ったその気持ちは、ちゃんと伝わります。
吃音があっても、自分らしく、前に進んでいけます。
あのときの私がそうだったように、
あなたにもきっと、“伝わる瞬間”が訪れます。
(この記事は、吃音当事者の体験に基づいて執筆しました。吃音に悩むお子さんやご家族の参考になれば幸いです)
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