吃音(きつおん)というと、「うまく話せない」「思うように伝えられない」といった“弱さ”ばかりに目が向きがちです。
でも私は、吃音と共に生きてきたからこそ見えてきた「強み」があると感じています。
今回は、吃音当事者として私が実感している「吃音が育ててくれた3つの力」について、具体的にお話しします。
吃音に悩む子どもたちや、その親御さんにとって新しい視点になれば嬉しいです。
私が考える吃音の強み
私が吃音を通して育てられたと思う力は、「語彙力」「傾聴力」「思考力」の3つです。
それぞれが、吃音と向き合いながら身についた強みであり、今では私の大切な財産になっています。
【語彙力】日常が“言い換えトレーニング”──自然と増える言葉の引き出し
吃音を持つ人は、どもりやすい言葉を避けて話す工夫を自然と身につけています。
たとえば、「かきくけこ」が言いにくいと分かっていたら、「果物」を「フルーツ」に、「急に」を「突然」に言い換える──。
こうした日常的な言い換えトレーニングが、結果として語彙力を高める訓練になっているのです。
実際、私も学生時代から「いろんなことを知ってて、物知りだね」と言われることが多くありました。
新聞や本を読みながら「別の言い方」を自然と探す癖がついたのも、吃音がくれた思わぬ恩恵でした。
過去には吃音がありながら名を残している偉人もいました。
たとえば、中国春秋戦国時代の思想家・韓非子(かんぴし)は重度の吃音がありながらも、その鋭い思考と論理的な文章力によって、始皇帝に重用されたと伝えられています。
【傾聴力】“待ってもらえる”経験が、人の話を聴く力に変わる
吃音があると、話すときに相手の「反応」がとても気になりますよね。
私も子どもの頃、吃音が出て話すのに時間がかかった時に、ただじっと待っていてくれるだけで心が救われた記憶があります。
だからこそ、今は自分が聞き手になるとき、相手が安心して話せるように、じっくり耳を傾けることを意識しています。
吃音のある人の中には、「話すのが苦手だから、聞く方が得意」という方も多いと思います。
でもそれは、立派なコミュニケーションスキルです。
今の時代は「話し上手」だけでなく、「聞き上手」も求められる時代。
傾聴力は、社会の中で確かな価値を持つ強みになりうるのです。
【思考力】言葉を選ぶプロセスが、深く考える力を育てる
吃音があると、「とりあえず話してみる」ということが難しい場面が多々あります。
そのため、私たちは一言一言を慎重に頭の中で組み立ててから話す癖が自然と身につきます。
このプロセスを繰り返すうちに、短絡的な反応ではなく、しっかり考えたうえで言葉を発するようになります。
私もよく「落ち着いてるね」「ちゃんと考えて話すよね」と言われることが多く、吃音のおかげで身についた視点だと感じています。
一見すると不便に思えるこの習慣こそが、思考力や表現力を磨く貴重な機会になっているのです。
まとめ──吃音は“隠すもの”ではなく“活かせるもの”
吃音があると、「人前で話すのが怖い」「自分は劣っている」と感じてしまうこともあるかもしれません。
私もかつてはそうでした。
でも今は、吃音があったからこそ育まれた内面的な力に感謝しています。
- 毎日の「言い換え」が語彙力につながった
- 話すことの苦労があるから、聞く姿勢が育まれた
- 言葉選びに時間をかけるから、思考が深まった
吃音は決して「弱さ」だけではありません。
むしろ、それを通して培われた力は、人生を深く豊かにしてくれる内なる財産です。私はそう信じています。
吃音に悩んでいるあなたへ。
どうか「話すことの難しさ」だけに目を向けず、自分の中に育っている“強み”にも気づいてみてくださいね。
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